はじめに ゴールテープを切った後に待つ虚無感
ここ数年、投資家の間ではFIRE(Financial Independence, Retire Early)が究極の目標として崇められてきた。
嫌な上司に頭を下げる必要もなく、満員電車に乗る必要もない。配当金や取り崩しだけで生きていく毎日は、バラ色の世界に見えるだろう。
しかし現実には、念願のFIREを達成したものの、数年で再び労働市場に戻ってくるFIRE卒業と呼ばれる人々が増加している。
彼らは金がなくなったから戻ったのではない。あまりの孤独と退屈さに耐えられなくなったからだ。
実際管理者もFIREしようと会社を辞めたことがあり、数週間は天国のような時間を過ごしたが、それ以降は地獄のような日々になった。
そのため早めに再就職した。
30代・40代という働き盛りに社会との接点を絶つことが、果たして幸福に直結するのか。本記事では、資産形成のその先にある、金銭だけでは解決できない幸福の本質について考察する。
1. 早期リタイアが招くアイデンティティの喪失
FIREを目指す過程では、資産額という明確な数字の目標があるため、日々の生活に張り合いがある。
しかし、いざ目標を達成し、会社という看板を下ろした瞬間、多くの元エリートたちは強烈なアイデンティティ・クライシスに襲われる。
何者でもなくなる恐怖
会社員時代は、〇〇会社の部長といった肩書きが社会的な信用や所属意識を保証してくれていた。しかしリタイア後は、単なる無職の資産持ちとなる。
社会的な承認欲求が満たされず、誰からも必要とされていないという感覚は、想像以上に精神を蝕む。
特に男性の場合、仕事の成果を自己の存在価値と結びつけているケースが多く、リタイア後の鬱リスクが高い傾向にある。
自由という名の地獄
毎日が日曜日という生活は、最初の数ヶ月は天国だが、すぐに飽きが来る。趣味や旅行も、仕事という制約があるからこそ輝くものであり、それが日常になればただのルーチンとなる。
膨大な自由時間をどう使うかという課題は、資産運用よりも遥かに難解な問題となり得る。
2. 資産を取り崩す生活のメンタル負荷
金銭的な不安から解放されるはずのFIREだが、皮肉なことに、資産を取り崩す生活に入ると、現役時代とは質の異なる強烈なストレスに晒されることになる。
資産寿命が縮む恐怖
給与所得がない状態で、株価暴落に遭遇することは恐怖でしかない。生活費を賄うために、暴落して価値が下がった資産を泣く泣く売却しなければならないからだ。
これはシークエンス・オブ・リターン・リスクと呼ばれ、リタイア直後の運用成績が悪ければ、計画していた資産寿命が劇的に縮まる可能性がある。
資産が減っていく通帳を毎月眺めながら、あと何年生きられるかを計算する生活は、決して心安らかなものではない。
また早くリタイアするのでもらえる年金額も十分とは言えないだろう。
インフレによる実質価値の毀損
現在のインフレ率は、キャッシュフローを持たないリタイア民にとって脅威である。現役世代ならインフレに伴う賃上げが期待できるが、リタイア民は賃上げは期待できない。
4%ルールなどの理論上の取り崩し計画は、急激なインフレ局面では破綻するリスクを孕んでいる。
3. 幸せなFIREの形 FI(経済的自立)へのシフト
FIREが必ずしも不幸を招くわけではない。重要なのは、RE(早期リタイア)よりもFI(経済的自立)に重きを置くことだ。
嫌なことに対してNOと言える権利
完全なリタイアを目指すのではなく、生活費の半分を資産所得で賄い、残りを好きな仕事で稼ぐサイドFIREやバリスタFIREというスタイルが、幸福度の観点からは合理的である。
経済的自立があれば、会社にしがみつく必要がないため、精神的な余裕を持って働くことができる。
イザとなれば辞められると思っているのと、辞めたら生活できないと思っているのでは、追いつめられ度が違う。
社会との繋がりを維持する
適度な労働は、社会との接点を保ち、規則正しい生活リズムを作り、健康寿命を延ばす効果がある。30代・40代であれば、完全に隠居するには早すぎる。
自身のスキルや経験を活かし、報酬の多寡に関わらず社会に貢献することで得られる充足感は、配当金だけでは決して得られないものである。
つらい仕事から逃げるだけでなく
つらい仕事から逃げるだけでなく、その後の計画や展望は持っておいた方がいいだろう。人はただ金さえあればいいというわけではない。
そのことが分かってないと、お金さえあればFIREできると考えがちだ。お金をこさえるだけではなく、FIREしたあと快適に生きるための準備はしておくべきだ。
定年退職時も同様で、定年後の準備を何もせずに定年すると、後悔するというケースが多い。
副業で自分の城を作っておく
投資で金が出来たらリタイアするではなく、仕事しつつFIRE後の自分のライフワークを作っておく。
完全FIREすると想像以上に何もない生活となる可能性がある。
自己肯定感の低下とともにうつ病になるリスクもある。
いくら金はあっても多少は社会との接点を持っておくのが現実的と言えるだろう。
4. 早期リタイアにおけるリスクとデメリット
FIREを目指す、あるいは実行する際には、以下のリスクを直視する必要がある。
再就職の難易度
一度キャリアを完全に断絶してしまうと、万が一資金が尽きたり、インフレで計画が狂ったりして再就職しようとした際、ブランクが足枷となり、以前のような条件で働くことは極めて困難になる可能性がある。
想定外の出費と長生きリスク
人生は計算通りにはいかない。自身や家族の大病、親の介護、あるいは想定以上に長生きしてしまう長寿リスクなど、シミュレーションに含まれていない巨額の出費が発生する可能性がある。
ギリギリの資金計画でのリタイアは、長生きすること自体をリスクに変えてしまう危険性がある。
まとめ
投資で資産を築くことは素晴らしい。しかし、仕事を辞めること自体を目的にすると、その先には虚無が待っている可能性がある。
30代・40代の投資家が目指すべきは、仕事から逃げるためのリタイアではなく、経済的な不安を消した上で、一生続けたいと思えるライフワークを見つけることであるはずだ。
※本記事は情報の提供を目的としており、投資の勧誘や売買の推奨を目的としたものではありません。投資判断はご自身でお願いいたします。


コメント